天才地学教師
今日は、午前中で授業を強制終了した。 午後は、部室で落語の練習をしてから、上野に向かった。
まず、ダヴィンチの受胎告知ちゃんに会いに行った。 4時ちょっとすぎに入ったので、予想に反して、(平日ということもあって)、人は驚くほど少なかった。なので、40分間も見ていた。こんなに長いあいだ見ているような、ずうずうしいやつは、もしかしたらぼくだけかもしれない。いったい、どういうことだろうか?目が離せないのだ!絵の中に、吸い込まれていってしまいそうなのだ!ああ、これが恋なのですか?
そのあと、東京文化会館にふらりと立ち寄った。 立て札が立っていた。
「四階 音楽資料室」
んっ??なんだ?えーっと、なになに・・・なんと、クラシックのCD,DVD聴き放題、見放題だって!!なんてこった!こいつはすごい!すごいぞ!最高だ!
ぼくは笑顔で資料室に入っていった。 しかし、その瞬間、ぼくは見てはいけないものを見てしまった。 自然の摂理として、光あるところには、必ず闇があるのだ。
目の前に、ゲジゲジまゆげで、ツルツルぼうずのジジイが、パソコンを開いて、楽譜を読んでいた。 うっ・・・この顔は・・・ウゲゲ・・・あいつに違いない・・・そう、某S鴨高校の天才地学教師だ。 え~~っ、なんでこんなところにいるの???
たぶん、相手はぼくなんかのことは完全に忘れていると思うが、なぜかぼくはこそこそと見つからないように行動してしまった。きつねはねずみになった。
しかし、ここは最高だ。東京に、こんな場所があったとは、知らなかった。ものすごく膨大な量のCD,DVDがそろっているのだ。しかも、利用料無料。今年の引きこもり場所は、ここに決まりだ!
そのあと、一階に降りて、ベルリオーズの幻想交響曲のコンサートを聴いた。指揮は、小林健一郎。キチガイの曲だと思った。今まで聴いたコンサートの中でも、ワン・オブ・ザ・ベストに入るくらいの爆演だった。
第四楽章は、狂ってた。断頭台への、狂ったような行進!破滅への突進!なんか、自分まで、「畜生、人生終わりだな」と思った。コバケンはクサすぎるくらい、楽器を鳴らし、スピードを上げた。しかし、こうでなくては、キチガイさが出ない。轟音で、文化会館が破壊されそうになった。
最後の第五楽章の気持ち悪さといったら、ゾッとしたよ。この幻想交響曲は、クラシック音楽の歴史の中で、はじめて美のほかに醜を描き出した曲なのだ。胸をムカムカさせるような、背筋をヒヤッとさせるような、ゾッとする、悪魔の踊り。ああ、なんだかこっちまでおかしくなってしまいそうだ。発狂してしまいそうだ。
熱狂のうちに、曲は終わった。拍手が沸き起こった。ぼくは、それに耐えられなかった。理解できなかった。こんな、醜悪な、それでいて熱狂的な音楽を体験して、どうして暖かい拍手などできるものか!ぼくは、もう頭がぐちゃぐちゃになり、今にもおかしくなってしまいそうなのだ。みんなはそうではないのだろうか?なぜ、笑って拍手ができるのだ?ありえない!
こんなに醜く、猟奇的で、異常な世界に触れて、聴衆が取れる行動は、戦慄のあまりその場に凍りつくか、号泣しながら会場を去ることしか選べないのでは?拍手を送るなど、問題外なのでは?ぼくは、コンサート会場を包む楽しい雰囲気に耐えられなかった。拍手をやめて、さっさと会場を出た。もちろん、ハンカチで涙を拭きながら。